2023
02.19
日本でただ一つのミュージアム!?「大井川音戯の郷」の紹介
2021年末,サウンドスケープ※1(音風景)に関する研究として,静岡県川根本町に位置する「音と自然の体験ミュージアム 音戯の郷」に行ってきました。
同施設は,1998年に開館した「音」に関する展示を中心としたミュージアムであり,日本においてとても珍しい施設です。
音は,私たちにとってとても身近な存在であり,日常生活にも欠かせないものです。例えば,学校のチャイムが鳴った瞬間に「授業が終わったな」と感じたり,救急車の音が聞こえると「どっちの方向から来ているのか?」と瞬時に察知したりと,無意識でも常にきいているのが「音」です。
しかし,普段意識をしていなくてもきこえている音はたくさんあり,ちょっと意識を向けて,よく耳を澄ませてみると我々はたくさんの音に囲まれて過ごしていることに気づかされます。
「音戯の郷」では,そんな「あたりまえ」になってしまっている様々な「音」を,大型の楽器や,聴診器を使ってきくことを通して体験し,ふれて,楽しむことができます。まさに「音」と「戯」れる経験ができる唯一無二のミュージアムです。
今回の訪問では,実際に筆者らも音と戯れる体験をし,さらにミュージアムの音を収録させていただきました。
また,音戯の郷の増田様より立ち上げ当初の貴重な資料とともに,お話を伺うこともできました。
それらの一部を本ブログにてご紹介します。
※1サウンドスケープ
カナダの音楽家であるマリー・シェーファーが提唱した用語であり,サウンド(音)とランドスケープ(風景)を合わせた造語です。
我々の周りに存在するすべての音環境を捉える考え方です。
【展示されている音の紹介】
♪「おとぎチャイム」
♪「レールチャイム」
♪「パイプチャイム」
♪「竹のおしゃべり」
♪「風の塔」
【「音戯の郷」増田様へのインタビュー(一部抜粋)】
―音戯の郷の立ち上げの背景について
音戯の郷は,川根本町の素晴らしい自然や,伝統文化の音をテーマにして,それをより多くの人(幅広い年齢層の方向け)に紹介するために建設された。
ストレスの多い日常生活で感度の鈍った五感のホコリを取り払い,感受性を取り戻すことを目的としている。
―音戯の郷の名前の由来は?
「音」と「戯」れることで,音を中心とした「五感遊び」を楽しみ,子ども心と好奇心を取り戻すための「故郷(ふるさと)」を意味している。
―「音戯の郷」のコンセプト
1992年の建設に向けて,当時「奧大井音戯の郷五感オアシス計画」というものがあった。
これは,人間の営みが自然システムを大きく狂わせていることを受け,自然に育まれた人間の営みをより良く理解するために,五感(聴く,触れる,視る,香り,食す)で感じ,考え,応用することを目的としている。これらの考え方を本川根町(現 川根本町)から,地域の発展と文化の創造のため,将来に発信するという計画である。
この考えに基づき,以下の3つの地区(ゾーン)に分けて構想された。
・五感を考えるところ(風のオアシス)→音戯の郷
・五感を感じるところ(緑のオアシス)→智者の丘公園
・五感を応用していくところ(水のオアシス)→長島ダム
―サウンドスケープと音戯の郷のかかわりについて
「音戯の郷」の構想段階の資料にはサウンドスケープの概念や,提唱者であるマリー・シェーファーの名前が出ている。当時,日本サウンドスケープ協会の方や,サウンドスケープ研究者に意見を求めたことはほぼ間違いないであろう。
サウンドスケープとのかかわりという点で考えると,1996年に大井川鐵道(鉄道)のSLの汽笛が「残したい日本の音風景100選」※2の一つに選出されたこともあり,「サウンドスケープの町づくり」を目指した計画もあった。
※2
平成8年に環境省(当時の環境庁)が、「全国各地で人々が地域のシンボルとして大切にし、将来に残していきたいと願っている音の聞こえる環境(音風景)を広く公募し、音環境を保全する上で特に意義があると認められるもの」として「残したい“日本の音風景100選”」を選定した。
出典:環境省「残したい”日本の音風景100選”の概要」
https://www.env.go.jp/content/900400153.pdf
出典:環境省「残したい”日本の音風景100選”パンフレット」
https://www.env.go.jp/content/900400154.pdf
【おわりに】
今回,急なお願いにもかかわらず,温かく迎え入れて下さった「音戯の郷」の職員のみなさま本当にありがとうございました。
また,増田様には貴重なお話と,当時の資料を提供いただきましたこと,重ねて御礼を申し上げます。
今後も「サウンドスケープ」と「音戯の郷」のかかわりについて調査研究を行ってまいります。
「音戯の郷」のホームページはこちらからご覧ください
こども学科 小澤俊太郎・久米隼