2014
10.15
言葉とメディア
日本小児科医会が平成16(2004)年に、子どもたちに関わるすべての人たちにある提言を行った。それは次の5項目から成り立っている。
○ 2 歳までのテレビ・ビデオ視聴は控えましょう。
○ 授乳中、食事中のテレビ・ビデオの視聴は止めましょう。
○ すべてのメディアへ接触する総時間を制限することが重要です。1 日 2 時間までを目安と考えます。テレビゲームは1日 30 分までを目安と考えます。
○ 子ども部屋にはテレビ、ビデオ、パーソナルコンピューターを置かないようにしましょう。
○ 保護者と子どもでメディアを上手に利用するルールをつくりましょう。
小児科医として、日々臨床に携わりながら彼らは、メディアに起因する奇妙な現象に気づき始めたのだ。子どもたちの成長に必要なのは、人との関わり合い、遊びと実体験なのだが、この当たり前のことが、当たり前でなくなってしまったということのようだ。
人類にとって言葉は特別な重みを持っている。他の動物とは異なり、数十万年前すでに人類の祖先は言葉らしきものを使っていた。そして農耕牧畜を始めてから約1万年、文字が発明されたのが数千年前、印刷物が多くの人に頒布できるにようになったのが数百年前、人類は長い時間をかけて、話し言葉から書き言葉(文字)を発展させ、言葉を人類にとって欠くことの出来ない伝達、思考の手段とし、飛躍的に様々な文化を発達させてきた。
個体発生は系統発生を繰り返すと言われるように、人は産まれてからひたすら言葉を獲得していく、これは言葉の進化をなぞる行動であり、人類の大きな特性である。この大事な揺籃期にある子どもたちを、テレビやビデオなどのメディア漬けにしてしまうということの弊害は想像するに余りあるだろう。
それは、言葉の発達を阻害し、コミュニケーション能力を奪い、現実よりもバーチャルな世界に心を満たしてしまう。その結果、心の成長が失われ、キレやすく、表現能力が劣化し、そして、俄には信じられないような少年犯罪、摩訶不思議な若者の行動、言動などに如実に現れているのではないだろうか。
提言からすでに10年が過ぎた、事態はどう変わったのか?
文部科学省の「問題行動調査」によれば、学校内外における暴力行為発生件数の推移を見ると、小中高校合わせて、平成9年度には28,526件であったのが、15年後の平成24年度には55,836件と倍増している。特に小学生では、1,432件から8,296件と6倍近くに急激に増えている。メディア漬けの深刻さはますます度合いを増しているように見える。
新しいメディアであるテレビ・ビデオ・パソコン、ケータイ・スマホなどはたかが数十年の歴史しかない。子どもの成長における利害得失も正確には把握されてはいない。新しいメディアは、言葉をしっかり身に付けた上でなければ使いこなせないと考えなければならない。このことを踏まえた上で、新生児や乳幼児に関わる数多くの方々に、この日本小児科医会の提言に耳を傾けてもらいたいと願うものである。
図書館司書 阿部 峰雄(司書教諭課程 講師)