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「未来の図書館について」

未来の図書館とは?

と聞かれて誰もがまず思い浮かべるのが、言うまでもなく「電子図書館」であろうかと思います。

これは、現代のIT(情報技術)化によるコンピュータ・データベースを利用したウェブサイトによる図書館です。また電子データベースの充実した図書館や、インターネットから蔵書の検索・予約などができるシステムが導入されている図書館も、電子図書館とよばれることがあります。

電子図書館

言うまでもなく物理的な境界はないですし、24時間運営、検索が容易、保護と保存に最適で、図書館同士の連携がスムーズ、低コストであるなど、長所は数多いです。おそらく未来の図書館の主たる流れは、この方向であろうかと思います。

そして、未来の図書館のもう一つの流れは、古代アレクサンドリアの図書館が一つのヒントをあたえてくれます。これは、古代にはここを訪れれば、すべての学芸に通じることができたといわれる、幻の図書館です。70万巻もの美しい蔵書、癒される植物園、珍奇な動物園、贅を凝らした天文台、美麗なる大劇場と公共浴場、深夜も煌々と輝くファロスの灯台、とまさしく学芸の都でした。

アレクサンドリアの図書館つまり様々な人々が集まってくる社交の場、言い換えると、「触発する図書館」というものでした。大串夏美氏の言葉を借りるのなら、「知の参照から知の創造へ」「均質な大空間から多様な空間の集合へ」「静寂性を超える新しいツール」「リアルな空間としての図書館」「情報収集から情報発信の場所へ」「活動と情報の複合化」「メディアの複合化」「網羅的情報から専門的情報へ」「地域の個性を表現する」という現代図書館の最先端目標を、ある意味では具現化したものであったのかもしれません。

そしてこれらの諸目標を最高度に達成するためには、実は始めに記したように日常生活のデジタル化が、着実に進んでいく必要があるのではないでしょうか。「電子図書館」と「触発する図書館」は相矛盾するものではないと考えます。

ところで現代の図書館建築を見ると、全般的に機能主義的な、管理を主眼とした図書館建築から、利用者中心の図書館建築へとトレンドは移行しています。つまり居心地の良い図書館が求められているわけです。また同時に図書館は、前述したように、「触発する」「インスピレーションをかきたてる」空間でなければならないと思います。

心理学用語に「アフォーダンス」(affordance)という語があります。これは、情報とは環境そのものの中に存在すると考えるものです。そして環境世界には様々な情報が実在していますが、情報とは、知覚者が意味付けをしているのではなく、環境から、自分にとって価値ある情報をピックアップするものと考えるのです。

上記の意味で、各図書館は、それなりに分野性・専門性をもつべきではありますが、図書館を訪れる利用者が、そのつど図書館という空間・環境の中で各々が自由に、インスパイアーされるべき場なのではないでしょうか。

古代のアレクサンドリアの図書館は、実は、カリオペー(叙事詩)、エウテルペー(抒情詩)、エラト―(恋愛詩) メルポメネー(悲劇) クレイオー(歴史) テルプシコレー(舞踊) ウーラニアー(天文、占星術) ポリュヒュムニアー(音楽と幾何学)という九女神に関する研究所の付属図書館であったことを考えるとまことに興味深いです。これら九女神の力を借りて、そこで人々はインスパイアーしたのではないでしょうか。

古代の文献

抽象的な話を長々としたかもしれません。
ただ、ここで述べたかったことは、「電子図書館」「触発する図書館」という「未来の図書館」をつくりあげる二つの要素を挙げつつ、「埼玉純真短期大学図書館」が進むべき道を、私見ではありますが述べてみたかったのです。

きっと純真の図書館は電子化を最高度に進めつつも、様々な人々が集まり、インスパイアーする場所となるでしょう。

図書館長 入江良英(こども学科 教授)

「未来の図書館について」

2012.03.26

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